【LoL】アメリカ人(と日本人のハーフ)が紐解くZerostの歴史

本記事はLoL忍者に寄稿された英語原稿を和訳したもの。

本記事英語版執筆者であるKMTことKevin Millerは、LoLフリーランスコーチ兼コンテンツクリエーター。元V3 Esports CEO。アメリカ人と日本人のハーフ。

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序文

Zerostのストーリーは、多くの人に学びを与える興味深いものだと思う。Zerostは良い選手だった。最高の選手では無かったかも知れないが、Zerostは常に自分自身の仕事を行っていた。Zerostのキャリアの雲行きが怪しくなってしまった原因は、Zerostが自分自身の強みに気づかず、別の何かになろうとしてしまったことだと私は考えている。

Zerost: 己自身を知ることの重要性

ZerostはLJLのチャンピオンだ。Zerostには多くの勝利経験があるが、DetonatiN FocusMe(以下、DFM)を出てからは、成功を収めることができなかった。多くの人は、Zerostのことを終わった選手だとか、DFMの他のメンバーにキャリーされるだけの選手だったと考えていたことだろう。私はそれよりも、DFMがなぜ勝っているのか、DFMを良いチームにしているものは一体何なのかということを、Zerost自身が理解していなかったことのほうが大きいと考えている。ZerostはDFMでの成功の裏で、チームを見つけ、スター選手になろうとしていた。

 

これから2014年から2019年までを振り返り、所属チームとともにZerostの足跡を辿ろうと思うが、その前にADCの2つのタイプについて述べておきたい。

 




 

世界的に見て、ADCは2種類存在すると考えている。Uzi、FORG1VEN、Doubleliftのようなキャリー型と、Rekkles、Cody Sun、Lwxのようなクリーンアップ/ユーティリティ型の2種類だ。Zerostは後者のクリーンアップ/ユーティリティ型のADCに属している。突然飛び込んで行って、キャリーするタイプのADCではない。後ろにポジションを取り、出せるだけダメージを出し、生き残るタイプだ。もしUziがシンドラをピックしたとしたら?世界最高のキャリー型ADCが、メイジをピックするなんて、少しガッカリするのではないだろうか。それこそが、Zerostがハイパーキャリー型のADCをピックしたときに、私が感じた想いだ。

KMTのADCの分類はおよそ以下の通り。

キャリー型ADC:
チームをキャリーし、ゲーム全体を支配する。華麗なポジショニングや、あっと驚くアウトプレイを見せるが、しばしばそのリスクゆえに倒されてしまう。
Uzi、FORG1VEN、Doublelift、YutorimoyashiなどをKMTはこのタイプに分類している。

クリーンアップ/ユーティリティ型ADC:
安全な位置からできる限りのダメージを出す。または、チーム全体を支援する動きを行う。派手さはないが、一般的に生存能力が高く、安定感がある。ただし、ゲーム全体を支配することはない。
Rekkles、Cody Sun、Lwx、ZerostなどをKMTはこのタイプに分類している。

KMTは、ほとんどの場合において2つのタイプ間に優劣はなく、特徴の違いだと考えている。

 

頼れる存在(2014~2015)

Zerostを深く知るためには、過去に戻らなければならない。ZerostはDetonation Rabbit Fiveでキャリアをスタートさせた。チームの成績は4位から2位とバラバラだった。優勝することはなかったが、競争力のあるチームだった。LJLがまだ黎明期で、誰もがプロ選手になれたころの話だ。チームのトップレーナーはYutorimoyashi(現Sengoku Gaming ADC)で、ジャングルはAwaker(現Fukuoka Softbank Hawks Gamingコーチ)だった。

 

その頃は、誰もゲームを深く理解していなかった。だが、Zerostはチームメイトに比べればコンスタントにパフォーマンスを発揮できていたと思う。Zerostは頼れる存在だった。Zerostがフィードすることは滅多になかった。これはADCが持つべき素晴らしい資質である。ダメージを出し、死なずに生き残ること。それがADCの役割だ。

夢のオファー(2016-2017)

Zerostはとうとう夢の仕事を得ることができた。彼はDFMからオファーを受け、チームのスターティングADCとして参加することになった。その当時、それはすべての選手にとってゴールであった。DFMはすべてを持っていた。成功、資金、組織、優れた選手たち……。当時、Yutaponがボットからトップへとロールスワップしたため、安定したADCをチームは求めていたのだ。

Yutaponは現在は再びボットへとロールスワップしている。

 

Zerostが加入して、その穴を埋めた。死なずに、ダメージを出すという役割だ。シーズンを終えた後も、DFMのフォーメーションは常に変化し続けていた。Zerostは、わずか1シーズンで別のチームを探すことになった。

 

そして彼は、すぐに別のチームへと移籍した。Team BlackEye(以下、TBE)である。このチームには多くの問題があった。最も大きな問題は、選手それぞれの「強み」を理解していなかったことだと思う。そしてTBEでは、Zerostの弱みがあっけなく明らかになった。彼が成功から転落してしまった原因はさまざまだと思うが、彼が彼自身の強みを理解していなかったことが大きいと思う。チームには「主砲となる火力」が足りなかった。ゲームをキャリーし、支配していく選手がいなかったのだ。チームに「主砲となる火力」がないことは、どのチームにとっても死刑宣告である。TBEはすぐに降格してしまい、チームは終わりを告げた。




転落(2017-2018)

2017年の夏には、DFMで再起するチャンスを得た。DFMはレギュラーシーズンを1位で終えるも、Rampageとの決勝戦で敗北。DFMは多くの理由で失敗したが、理由の1つはZerost自身とチームが、Zerostの強みを生かしたプレーができなかったことだと考える。

 

2017年の試合を分析すれば、ADCの違いをありありと理解することができるだろう。当時のLJLのADCにはミスマッチがあった。

この動画(1:00:19〜)では、ZerostとYutorimoyashiのタイプの違いと、スキルの差を見ることができる。Yutorimoyashiは、このプレイで限界に挑戦している。キャリー型という自分の持ち味を最大限に発揮し、持てる力を出し尽くし、チームが勝利するまで全力で戦い続けた。

eyes殿が「Yutorimoyashiがとんでもない動きをバロンピット内で行っている!」と実況する前後のシーンに注目。

決勝戦で敗北した後、Zerostは再びチームから外されることになる。そして彼は新たに昇格したBurning Core(以下、BC)に参加した。LJLの伝統の例に漏れず、昇格したばかりBCは0-10になり、さらにはプロモーションシリーズで0-3で負けることになった。奇妙なことだが、Zerostは最後の試合に出場しただけで、チームを救うために彼ができることはほとんど何もなかった。彼はよく戦ったと思うが、チームを救うのに十分ではなかったのだ。

この動画は、BCが0-3で敗北したプロモーションシリーズの第3試合だが、クリーンアップ型ADCの例になればと思い掲載した。ケイトリンもトゥイッチも、プレイスタイルは似通っている。安全な位置から、できるだけ多くのダメージを出すのだ。

漂泊(2018-2019)

この時代は、Zerostファンにとって暗黒時代となるだろう。ZerostはLJLCS(当時存在した2部リーグ)でプレイすることになった。2018年春、ZerostはSengoku Gaming Legendsでプレイしはじめたが、成功を掴むことはできなかった。チームは7-3でシーズンを終え、プロモーションシリーズへの参加権を獲得できなかった。

2018年の夏はSmash It Down(以下、SID)に参加。結果は5-5だった。SIDは選手が多すぎ、方向性のないチームで、とても混乱していた。Zerost自体のパフォーマンスも良くなかったが、まだLJLレベルではあった。CSでプレイしていることがZerostのモチベーションを落としたように私には思えた。CSで負けると、選手のモチベーションを下げることになる。ポケットピックのチャンピオンであるカリスタならまだよかったが、他のチャンピオンではパフォーマンスがまぁまぁか、悪いかのどちらかだった。

2019年、ZerostはLJLへと再び戻ってきた。V3 Esports(以下、V3)、そしてその後はRascal Jester(以下、RJ)の一員としてである。しかしここでも、Zerost自身もチームも、彼の持ち味は一体何なのかを理解していないように感じられた。Zerostは第3のキャリーの役割を完全に務めた。決して捕まること無く、安全にダメージを出せる存在。しかし、決してゲームを支配する存在ではない。V3もRJも、自分のチームの最大のキャリーは誰だと考えていたのだろうか?答えがもしZerostであったなら、そのチームは失敗する運命にある。

そしてZerostは、2019年末にリーグ・オブ・レジェンドからの引退を発表した。

未来への希望(2020〜)

Zerostのリーグ・オブ・レジェンドのキャリアは2019年に終了したが、彼は新しい挑戦を見つけた。Zerostは現在、Sengoku Gamingのヴァロラントチームの選手であり、配信者である。私はヴァロラントの専門家ではないし、Zerostのコンテンツをいつも見ているわけでもないが、彼がみんなを楽しませる分野を再び見つけたことをとても嬉しく思っている。Zerostはいつも人気のある選手だったし、いつも多くのファンがいた。

我々がZerostのストーリーから学べることは、苦手なことを改善することは重要だが、自分自身の強みと弱みをしっかり理解することも重要だということだ。もしZerostが自分自身の強み――スター選手のような派手さはないが、死なずにダメージを出せる能力――に気づき、そこに集中して改善していけたなら、リーグ・オブ・レジェンドでもっと成功できたように思えてならない。

元V3 Esports CEOによる、Crest Gaming Actの歴史解説。

 

管理忍

敵を知り己を知れば百戦殆うからずでござる。

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Source 【LoL】アメリカ人(と日本人のハーフ)が紐解くZerostの歴史 https://lolninja.net/2020/08/09/post-20836/